投稿日:2024年04月15日/更新日:2024年09月12日

【成功事例あり】人的資本経営の3つの視点・5つの要素とメリットを解説

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近年では、人材を資本ととらえる「人的資本経営」が注目されています。

しかし、「人的資本経営という言葉は知っているが、何から取り組むべきかわからない」「人的資本経営の概要が理解しきれない」のように悩む方も多いのではないでしょうか。

本記事では、下記について解説します。

  • 人的資本経営とは
  • 人的資本経営のメリット・デメリット
  • 人的資本経営の流れ

人的資本を正しく理解して企業価値の向上を図りましょう。

人材を企業の「資本」と考えるのが人的資本経営

人材を企業の「資本」ととらえ、人材の価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上へつなげる経営手法が人的資本経営です。

人的資本経営には、一貫した定義はありませんが、たとえば以下のように考えられています。

『人的資本経営とは、人材を「資本」として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげる経営のあり方です』

引用:人的資本経営とは|経済産業省

『人的資本とは、人材が、教育や研修、日々の業務等を通じて自己の能力や経験、意欲を向上・蓄積することで付加価値創造に資する存在であり、事業環境の変化、経営戦略の転換にともない内外から登用・確保するものであることなど、価値を創造する源泉である「資本」としての性質を有することに着目した表現である』

引用:人的資本可視化指針|内閣官房

つまり、人的資本経営とは、従業員を「投資対象の資本」としてとらえ、育成やマネジメントを行う経営方針です。

人的資本経営は、労働人口が減少し、競合他社と競争する立場にある企業が実施するべき経営戦略であり、持続的に企業価値を向上するために注目されています。

従来の経営手法と人的資本経営の違い

人材を「資源」としてとらえたのが従来の経営手法でした。

一方で、人材を「資本」として、投資し育成を図るものと考えたのが人的資本経営です。

ちなみに、資源は「消費されていく既存のモノ」、資本は「新しく価値を生み出すモノ」を意味しています。

また、従来の経営では企業と人材は主従関係にありました。

一方で、人的資本経営では企業と人材はお互いが対等に選び合い、自律的な関係として企業が人材を管理することが前提です。

人的資本経営に求められる3つの視点

2020年9月に経済産業省は、「人材版伊藤レポート」で、企業の取り組むべき方向性を示しました。

「人材版伊藤レポート」では、人材戦略に求められる3つの視点と5つの要素(3P・5Fモデル)を紹介しています。

ここでは、3つの視点(3P)を解説します。

  1. 経営戦略と連動した人材戦略
  2. 目標と現状のギャップの把握
  3. 企業文化として定着させる

参照:持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会 報告書|経済産業省

1.経営戦略と連動した人材戦略

人的資本経営を実現するには、人材戦略と経営戦略を連動しなければなりません。

まず、策定した経営戦略の実現ために求められる人材を定義します。

次に、経営戦略とのつながりを意識して自社に適した人材の採用や育成、配置などの戦略を練ります。

経営陣を中心に、経営戦略とのつながりを意識して、求められる人材の確保のための具体的なアクションやKPIを検討しましょう。

2.目標と現状のギャップの把握

人的資本経営においては、人材戦略と経営戦略が連動しているかを判断し、目標と現状のギャップを定量的に把握しなければなりません。

そして、目標と現状のギャップを作っている問題点や課題を洗い出し、定期的にPDCAサイクルを回します。

PDCAサイクルを回す過程で、人材戦略を見直しながらギャップを埋めましょう

そのためには、従業員の能力や配置など、正確な人材データが必要です。

3.企業文化として定着させる

人的資本経営においては以下の点が重要です。

  • 企業理念や企業の存在意義(パーパス)
  • 持続的な企業価値の向上につながる企業文化の定義と定着

しかし、企業文化は日々の活動や社員の意識・行動によって醸成されるものであり、簡単に定着するものではありません。

経営陣と従業員との間で企業理念やパーパス、行動指針を共有し、社員に対しての継続的な発信が求められます。

人的資本経営に求められる5つの要素

本章では「人材版伊藤レポート」で紹介されている、5つの要素(5F)を解説します。

  1. 動的な人材ポートフォリオ
  2. 知・経験のダイバーシティ&インクルージョン
  3. リスキル・学び直し
  4. 従業員エンゲージメント
  5. 時間や場所にとらわれない働き方

5つの要素は、すべての業種において共通して取り組むべき人材戦略です。

それぞれ詳しく解説します。

1.動的な人材ポートフォリオ

人材ポートフォリオとは、人材の構成内容を示したものです。

どのようなスキル・経験をもった人材が、各部署にどの程度いるのかを、リアルタイムに可視化できる状態にしたデータベースを指します。

リアルタイムな人材情報を活用すると、経営課題に必要なスキルを持った人材の配置が可能です。

人的資本経営には、経営戦略にもとづいた動的ポートフォリオを整備しましょう。

2.知・経験のダイバーシティ&インクルージョン

人的資本経営では、多様な経験や感性、価値観、専門性をもった人材を受け入れ、経営に活かす姿勢が大切です。

そういった人材がそれぞれを認め合い、個々の特性を活かした企業活動が行われる環境が人的資本経営に望ましいといえます。

また、多様な知見は、これまでになかった革新的な事業を生み出すきっかけにもなり、さまざまな顧客ニーズへの対応もできるでしょう。

3.リスキル・学び直し

新たなスキルや知識を身につけることをリスキル(学び直し)といいます。

人的資本経営では、企業が自律的にキャリア構築を支援し、従業員が自らのキャリアを見据えた学び直しが可能な環境の整備が求められます。

学び直しの習慣が社員に定着すると、個々のスキルアップだけでなく、ビジネス環境や経営環境に柔軟に対応できる組織になるでしょう。

組織変革を実現するためには、経営陣も率先してや学び直しを実践しなければなりません。

新たなスキルとして、近年ではDX化やデジタルスキルを身につけることが特に求められています。

4.従業員エンゲージメント

従業員エンゲージメントとは、企業と従業員や従業員同士の信頼関係によってつくられる、愛社精神や貢献意欲を指します。

組織の目標と社員の成長のベクトルを一致させることが従業員エンゲージメント向上の1番の近道です。

そのために、従業員が主体的に業務に取り組める環境を整備・提供し、従業員の能力を発揮できるようにしましょう。

また、従業員エンゲージメントの向上のためには以下のことも有効です。

  • 社員の納得感や共感を得やすい経営戦略
  • 柔軟な就業環境の整備
  • 多様なキャリアパスの準備

5.時間や場所にとらわれない働き方

近年では、リモートワークやフレックスタイム制、時短勤務制度などによって、時間や場所にとらわれない働き方が求められています。

より多くの従業員が自分に合った働き方を選択できるよう、業務プロセスや社内コミュニケーション、マネジメントなどの見直しも人的資本経営には欠かせません。

また、制度を導入するだけでなく、さまざまな働き方をする従業員が公正に評価される評価基準や業務プロセスの整備も必要です。

人的資本経営のメリット

人的資本経営には、以下の5つのメリットがあります。

  • 従業員の能力を可視化できる
  • 従業員のエンゲージメントが向上する
  • 企業価値を高められる
  • 生産性が向上する
  • 投資家から注目される

それぞれ解説します。

従業員の能力を可視化できる

人材育成を通して従業員が持つ能力や知識、スキルを細かく正確に把握しやすくなる点は人的資本経営のメリットです。

人的資本経営では、欧米で定着している「ジョブ型雇用」を採用しています。

ジョブ型雇用では「人材と企業」ではなく「人材と仕事(業務)」を結びつけて、個人のスキルや特性を可視化して人材を配置します。

ジョブ型雇用は、企業という大きな単位ではなく、業務単位で人材を振り分けることが可能です。

そのため、以下の2点が可能になります。

  • 最大限のパフォーマンスを引き出す人員配置
  • 不足している人材を見極めた人材採用

結果、企業価値を高めることにもつながります。

従業員のエンゲージメントが向上する

人材育成に力を入れると、従業員は企業に対して「自分たちの成長に投資を惜しまない職場」と認識します。

その結果、従業員のモチベーションの向上が期待できるでしょう。

従業員エンゲージメントが向上すると、定着率の向上や離職率の低減が実現できます。

従業員の自社での長期的なキャリア形成ができれば、組織の生産性の向上も望めます。

従業員が高い意欲で仕事をし、活性化した組織は、投資家から見ても魅力的です。

企業価値を高められる

人材に積極的に投資する企業には、優秀な人材が集まります。

求職者は「ここで働きたい」と思うため、応募率や採用率が向上するでしょう。

また、人的資本経営の実現は、社会的信頼が得られ、企業イメージの向上につながります。

顧客や社会は、従業員を大切に扱う企業は優良であると考えるため、売上・契約率の向上が期待できます。

人的資本経営では、投資家に対しての積極的な情報発信が重要です。

資料開示のみではなく、人材戦略の策定に至った意図や将来のビジョンを共有し、継続的に企業評価を高める情報を発信しましょう。

生産性が向上する

人的資本経営は、人材に投資し育成を行う方法です。

これにより従業員のモチベーションやスキルが向上し、生産性の向上が期待できます。

年功序列型ではなく、個々のスキルや成果で給与や実績が総合的に判断される点が、人的資本経営の特徴です。

従業員のモチベーションも上がるでしょう。

従業員のモチベーションアップは成長やスキルアップはもちろん、業務の生産性も向上します。

このようにして従業員と企業がともに成長し合える好循環が生まれるのです。

また、それぞれが自身の適正に合った業務に集中しやすい環境整備が整うのも人的資本経営の特徴のひとつ。

広く画一的な業務を担うジェネラリストだけでなく、専門的スキルやノウハウに特化したスペシャリストが育成されるため、他社との差別化も実現できます。

投資家から注目される

人的資本経営に積極的に取り組んでいる企業は、社会的価値も高いと評価されるため、投資対象として認識されやすくなります。

投資額の増加は、企業のさらなる発展と成長が見込まれるでしょう。

新商品・新サービスの開発や新規事業の立ち上げなども積極的に行えます。

また、人材への投資をさらに充実できるため、企業の将来性を高める効果も高まります。

つまり、投資額の増加は、企業の発展につながるのです。

人的資本経営のデメリット

人的資本経営にはメリットが多く存在しますが、同時にデメリットも理解しなければなりません。

  • コストがかかる
  • 長期的な取り組みが求められる
  • 成果が出る確実性がない

1つずつ解説します。

コストがかかる

人的資本経営は、人材が成長してから生産性や企業イメージの向上が期待できる反面、初期投資や運用費に膨大なコストが発生します。

  • 人材育成プログラムや組織風土の強化費用
  • 人的資本を評価・分析するツールやシステムの導入・利用料

自社に人的資本経営の知識やスキルがある人材が不足している場合は、外部企業からのアウトソーシングを検討する必要もあります。

長期的な取り組みが求められる

人的資本経営を行うには、従業員1人ひとりのスキルや特性を把握して、個々に合った人材育成プログラムを作成しなければなりません。

そのため、実現するまでに膨大な時間がかかるのがデメリットです。

また、終身雇用や年功序列など、従来の企業風土を一掃して作り直す必要もあります。

人的資本経営は、コストだけでなく時間もかかる経営戦略であると理解しましょう。

成果が出る確実性がない

人的資本経営の成功には、長い時間がかかります。

しかし、長期的に取り組んでも従業員から反発され、成果が出ないケースもあるでしょう。

特に、従来の方法に馴染んでいる従業員から反発を買いやすいかもしれません。

さらに、自社に適した施策が見つからず、成果が出ない可能性もあります。

施策の効果を検証しながら改善や見直しを行って成功させる忍耐力が必要です。

人的資本経営の流れ

人的資本経営はどのような流れで実践したらよいでしょうか。

本章では、3つのステップに分けて説明します。

  • 経営戦略と人材戦略を策定する
  • KPIの設定と施策を検討する
  • モニタリング・改善を行う

それぞれ解説します。

経営戦略と人材戦略を策定する

人材戦略は独立して検討するものではなく、経営戦略と連動して策定するものです。

そのため、自社が抱えている現状の課題と、今後目指していくべき方向性のギャップを認識しどのような人材戦略で課題解決を図るかを検討しましょう。

経営層と人事部の認識のすり合わせも必要です。

経営戦略と人材戦略のひもづけのために、CEOの右腕としてCHROを設置する企業も増えています。

CHROは人材戦略と実行を担当する役職です。

また、ステークホルダーとの対話内容を人材戦略に反映させるケースもあります 。

KPIの設定と施策を検討する

人的資本経営の成功のためには、自社が目指すべき組織と現状とのギャップを可視化し、いつまでに何を実現するのかを明確化し、KPIとして設定しましょう。

KPI設定においては、次の3つの視点でアプローチすることが大切です。

  • 未来志向:過去を振り返りながら現状を把握したうえで未来を見つめる
  • 経営戦略との整合性:経営戦略との連動を見失わないよう意識する
  •  自社らしさ:戦略には自社らしさを表現する独自性を盛り込む

また、ここでの施策を「投資」ととらえられなければ、人的資本経営は成功しません。

モニタリング・改善を行う

具体的な施策とKPIが決まったら、施策の効果を高めるためにPDCAを回すことが重要です。

効果検証で得られたデータをもとに施策を改善し、人的資本経営を成功させましょう。

しかし、人的資本は無形資本であるため、指標の数値化・定量化は困難かもしれません。

定量化が難しいポイントは、丁寧に議論を重ねてプロセスの妥当性やクオリティを精査する必要があります。

また、人事データの収集や計測、活用を正しく行うために、BI・AIツールの導入もおすすめです。

人的資本経営の情報開示のあり方

人的資本経営における重要な取り組みとして、人的資本の情報開示があります。

人的資本の情報開示とは、企業内の従業員価値や個人の能力、企業文化などの非財務情報の公開を指します。

人的資本の情報開示は、2023年3月期決算から大手企業4,000社を対象として義務化されました。

人的資本の情報開示は、投資家や取引先などのステークホルダーが企業の持続性や将来性を理解するためにも重要なポイントです。

世界では、人的資本に関する情報開示のルールとして、国際標準化機構(ISO)の「ISO30414」(人的資本に関する情報開⽰のガイドライン)が、多くの国で採用されています。

ISO30414は、関係者向けに、人的資本に関する情報の報告のための指針です。

次の11領域において49項目の情報開示規格が定められています。

参照:人的資本経営とは?メリットや情報開示のルールなど“基本のキ”をわかりやすく解説|OBC 360°

人的資本経営の成功事例

新たな経営戦略を取り入れるには、他社の成功事例を参考にしましょう。

成功事例を参考にし、自社の課題に合った効果的な施策を考案するのがおすすめです。

経済産業省が公表している「人的資本経営の実現に向けた検討会 報告書~人材版伊藤レポート2.0~実践事例集」を参考に、人的資本経営の成功事例を3つ紹介します。

  • 伊藤忠商事株式会社
  • 花王株式会社
  • キリンホールディングス株式会社

参照:人的資本経営の実現に向けた検討会 報告書~人材版伊藤レポート2.0~実践事例集|経済産業省

伊藤忠商事株式会社

伊藤忠商事株式会社は、少数精鋭の組織での競争力向上を目的に、労働生産性を重視して人的資本経営を行った成功事例です。

企業価値の向上を目指した人材戦略と成果を明確化するために、いくつか目標を定めました。それぞれの目標に課題と施策を定め、従業員の業績に対する意識を向上させています。

  • 優秀な人材の確保
  • 社員の能力開発
  • 効率性の追求
  • モチベーションの向上
  • 経営参画意識の向上

加えて、労働生産性を重視して、純利益を公開することで採用力を強化しました。

その結果、大学生の就職人気企業ランキング1位を獲得し、優秀な人材の確保ができるようになりました。

花王株式会社

花王株式会社は、多様な人材がパフォーマンスを発揮できる企業風土と従業員のチャレンジを重要視した人的資本経営の成功事例です。

花王株式会社では、人材を企業の資本としてとらえました。

そして、従業員一人ひとりが持つ能力を活性化するため、以下の施策に取り組みました。

  • 全従業員にチャレンジの機会を与え、立場を越えた連携の推進
  • 専門性の高い多様な人材が能力を発揮できるキャリア開発と人材育成
  • 柔軟な働き方を実現する環境整備

そのほかにも、以下のような取り組みを実践しています。

  • 「人材企画委員会」を毎月開催

経営層を委員長とし、人材開発の課題や施策についての議論や進捗報告を行う。

  • 「Diversity推進ミーティング」を計16回開催

各部門・国内グループ会社の人事責任者やキャリアコーディネーターが、さまざまな従業員の活躍を推進する目的のために行った人材開発。

以上のような取り組みを通して、さまざまな人材が活躍するダイバーシティを拡大させました。

キリンホールディングス株式会社

キリンホールディングス株式会社は、食と医療の領域で築き上げた組織です。

その強みを活かし、経営戦略と人材戦略を両立させた人的資本経営の成功事例です。

ヘルスサイエンス領域へ新たに参入するため、ヘルスサイエンスやICTなどの専門的な知識や経験を持つ人材をキャリア採用で募集しました。

また、キリンホールディングス株式会社では、エンゲージメントスコアを重要な成果指標として設定しています。

役員報酬にもエンゲージメントスコアを反映させ、従業員の働きに応じた成果報酬を実現させました。

さまざまな人材が活躍するダイバーシティの拡大に向けて、若手従業員などが活躍できる機会を設けて、キャリア採用や育成計画を充実させています。

まとめ

人的資本経営は、従業員の育成・エンゲージメントが向上し、高いパフォーマンスで企業の生産性の向上を実現します。

人的資本経営を推進するには、従業員にとって働きやすい環境を整備しなければなりません。

また、人材を「資本」ととらえることが重要です。

人的資本経営に求められる3つの視点と5つの要素を理解し、推進しましょう

人的資本経営には、コスト面などでのデメリットも存在します。

しかし、人材をうまく活用できれば、変化の激しい現代でも淘汰されない、強い企業体力が身につくでしょう。

人的資本経営は、企業の継続的な発展のために欠かせない取り組みです。

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